177万年前から介護? 進化心理学と介護について

上あごの歯がすべて抜け落ちた原人の化石が、2005年西アジアのグルジアで発見されました。約177万年前のものと見られ、歯の抜けた穴が骨で埋まっていることから、歯が抜け落ちた後も数年は生きていたとみられています。野生では生存が不可能な状況で、仲間から柔らかくした食料をもらうなどの援助・介護を受けていた可能性があります。

人はなぜ介護をするのか? それは進化心理学からひも解くことができます。

人類が他の類人猿と分岐したのは約600万年前で、そのころから地球の環境は寒冷化、アフリカでは乾燥化が始まりました。その後、250万年前からさらに寒冷化、乾燥化が進み、人類は草原やサバンナに進出しました。そこには沢山の捕食者がおり、食料獲得は困難で、人類は食料獲得のための道具の発明と、密接な社会関係の集団生活が必須となりました。

この社会環境で生き延びていくためには、他者を理解するための社会的知能が有利となったに違いなく、他者の理解を共有する、つまり「こころ」を共有する術を見出しました。そして、他者を「いたわる」行動の1つとしての介護という行為が、私たち人類の遺伝子に刻み込まれていきます。

最新の研究(※)では病人への介護が、典型的な人の形質の進化に寄与した可能性をコンピューターシミュレーションモデルによって明らかにしました。その形質は、

1.疾患の認識と協調的な介護を支える心理的、社会的、および認知的属性

2.症状を発見しやすくする身体的特徴

3.介護を行う宿主の間で蔓延する病原体に適応した免疫系

と示されました。介護は、ヒト系統の繁栄と関連する心理的・行動的形質の重要な要素であり、疾患の蔓延を抑制できたことが、ヒト社会の複雑性の進化の基盤となった可能性があると結論付けられました。

※Kessler, S.E. et al., Social Structure Facilitated the Evolution of Care-giving as a Strategy for Disease Control in the Human Lineage. Scientific Reports, 2018